新たな763日目
「あんた、さっきから空を見上げてばかりいるけど、心配ごとでもあるの?」「いや、別に」「この空は、雨漏りするようなボロ屋の天井じゃないんだから、雨なんて降ってこないって」「そんなこと、ちっとも心配してないさ」「そうなの。まさか杞の人のように、天が崩れ落ちてくるんじゃないかと心配してるんじゃないだろうね?」「そんなことが起きれば、ぼくとしては大歓迎だね。宇宙に覗き穴ができるんだから、新発見ができるかも知れないじゃないか」「あら、そう」「でもそんなこと起こりっこないね」「だったら何よ?わたしの顔を見たくないから?」「それもある」「えっ!」「と、云いたいところだけど、嘘だよ、嘘」「もう、やだ~」「実はね、今日はなんか幸運が舞い降りてきそうな予感が朝からしてるんだ」「ふ~ん、幸運って天から降って湧いたようになるの?」「違うよ、それを云うなら、天から降る、地から湧く、だろ」「あら、そうなの。でも幸運なら、天からも湧いたって大歓迎じゃない」「そりゃあそうだね」「ねえ、それで幸運はまだなの」「・・・」「あら、ジェイク、わたしの目線の先に黒い革みたいな長方形のものが見えない?」「見える、見えるけど」「あれ、もしかして財布?」「なんかそのように見えるよね。ちょっと行って、中身を見てみようか?」「まあ、随分入ってるわね」「だったら御主人の財布だよ、ほら、ここのイニシャルが」「ホントだ。いまごろ、焦ってるわよ」「そうだ、早く持ってってあげようよ。きっとご褒美くれるよ」「そうだわね、善は急げよ」「そういえば、今日は3月12日だよね?」「そうだけど」「なるほど、分かった。今日はサイフの日だ!これだったんだ、幸運ってのは」「サイフの日?ああ、312ってことね。これが幸運?期待したほどでもないわね」「でも御主人にしてみれば、なくなった財布が出て来たんだもの、幸運じゃなくて何なんだよ」「そう云えば、そうね」「とにかく、よかったじゃないか」「でも、それよりもわたしの財布に幸運が降って湧いてくれたほうがいいんだけど」「そんな強欲なことを云うなんて。口を紐でくくってやろうか」「そしたら、今日は巾着の日になるわね」

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