新たな700日目

「気を付けていってらっしゃ~いっ」「おいおい、そんな云い方されたら、なんかルンルンで行ってきま~す、って云いそうで気分が出ないなあ」「あら、そうかしら?どこの家でも、こんな感じなんじゃない?」「そうかなぁ?」「気分って云うけど、一体どんな気分になりたいの?」「いいか。男は敷居を跨げば7人の敵あり、っていうじゃないか。その敵と今から戦いに行くんだ。おれは戦場へ出てゆく兵士なんだ。それをつかまえて、いってらしゃ~い、ってのは、遊びに行くようで戦意を喪失させるんじゃないかなぁ」「じゃあ、どう云えばいいのよ」「そうだなあ、例えばだけどな。あら、おまえさん。お出掛けかい。カチッ、カチッ、気を付けておいきよ、なんて具合かな」「なんだ、時代劇の台詞のように云って欲しい訳ね。それで、そのカチッ、カチッってのは何よ?」「ああ、あれかい。切り火だよ。切り火」「切り火?」「ほら、、江戸の岡っ引、半七親分とか平次親分が出掛けるとき、後ろから肩越しに女房が火花を打かけて送り出すだろ、あれだよ。出立の無事安全を祈るために打つ清めの火だよ」「それは分かったけど、そうするとどう気分が変わるの?」「分かんないかなぁ?身が引き締まってさ、やってやろうって気になってくるだろ」「そんなもんかねえ?あんたの場合、形から入るのが好きよね。それでうまくいってるかは怪しいものだけど」「もう、つべこべ云わずにやってくれたら、気持よく仕事に行けるのに」「だったら、その火打ち石、買ってきてよ」「えっ、家にはないのか?」「そんなものある訳ないでしょう。今どきある方が珍しいんじゃない。ライターでよければ、火をつけてあげるけど」「何だって!」「アチチアチチって一気に目が覚めて、これなら効果抜群と思うのだけどな」「もういいよ。行ってくるからな」「おまえさん、気を付けてお行きよ。カチッ、カチッっと」

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